IT業界を理解するために、この業界を構成している様々な規模の会社のピラミッド構造を把握しておくことが必要です。
ITの会社は、一万社以上あり、下記のようなピラミッド構造になっています。
このピラミッドでは、3層までしか示していませんが、この下に4層、5層とさらに裾野が広がっている形になっています。
一番トップの、NEC、富士通、日立製作所と、2番目の層に属しているIBMは、メーカー系と呼ばれています。
これらは、ハードウェア開発からソフトウェア開発まで幅広く手掛けているのが特徴です。
メーカー系とは、コンピューターメーカーやハードウェアメーカーの情報処理部門やソフトウェア開発部門などから独立した子会社であることが多いです。
しかし、上記の4社のようにメーカーの傘下会社(ある企業の支配や影響を受けていたり、言いなりになっている企業のこと)として稼働している会社もメーカー系に含まれます。
SI(システムインテグレーション)とは、顧客の業務を把握し、抱えている問題を解決するための企画、設計、開発、運用などを行うことです。
業務分析などを行いながら発注元の業務に合わせた形でオーダーメイド感覚で行うので、一般的に開発工数も多くなり、金額も安くて数千万から、高いと数百億以上にもなります。
このSIを行う企業のことを、システムインテグレーターと呼び、略して「SI」もしくは「SIer」(エスアイヤー)と言います。
それだけ高額な仕事を受けられる企業は、必然的に体力(資金力)のある大企業だけになります。
上記のピラミッドで言うと、下記が大手SIerと言われる企業です。
・NTTデータ
・日立製作所
・富士通
・NEC
SIerとは、もちろん大手だけではありません、準大手、中堅の企業でも、SIを行っている企業はSIerと呼びます。
さて、話をもどします。IT業界の下請け構造を理解してもらう為に、簡単な例をあげて説明したいと思います。
ある、大手の銀行がネットバンキングのシステムを構築したいと考えているとします。
銀行は、まず大手SIerに見積を依頼します。
ここがピラミッド構造の最初のポイントで、大手企業がシステム導入を検討する際には、名の知れた大手のSIerに発注します。
大手SIerは1億円でこの仕事を受注したとします。
大手SIerの社員は基本的には管理や調整などのマネージメントがメインの仕事になり、実際にシステム開発をするシステムエンジニアやプログラマーは下請け会社に発注して作業してもらいます。
建設業界をイメージして貰うと分かり易いのですが、ゼネコン社員が建設現場でクレーン車を動かしたり、道路に作ったりしないですよね。
それと同じです。
そこで、大手SIerは実際にシステム開発をするシステムエンジニアやプログラマーを調達するために、主にピラミッド構造のひとつ下の中小規模のIT企業に募集をかけます。
大手SIerは、マネージメント作業、営業費用のコスト等、もろもろかかるのコストに、この仕事で得る利益を上乗せした価格を得る必要があります。
その価格を差し引いて、中小規模のIT企業に7,000万円で募集をかけます。
そして中小規模のIT企業は、自社で抱えている社員だけでは人が足りなかったり、もしくは自社の社員だけで作業したら7,000万円では利益が得られない、といった理由から、今度はもっと安い費用で孫請けに当たる零細企業(※中小企業のうち,とくに小規模なものであり、経営規模のきわめて小さな企業)に募集をかけます。
中小規模の会社も、零細企業に対するマネージメントコストがかかったり、また利益をあげる必要があるため、今度は、5,000万円で孫請け会社に募集をかけます。
と、こんな感じでエンドユーザ(※もともとのお客さん。この例では大手の銀行)からは、1億円の価格をもらっているにもかかわらず、この仕事に関わる下請け会社が増えれば増えるほど、受注価格が安くなっていき、一番下の零細企業は、半分のお金(5,000万円)しかもらえない事になります。
この例では、IT企業は3つしか入っておりませんが、酷いケースでは、4つ、5つと下請けが入るケースもあります。末端の一番下のIT企業がもらえるお金は更に安くなるわけです。
実際には自分の会社でマネージメントも何もせずに、5,000万円で募集が掛かっている仕事を4,000万円で下請けに紹介するだけという会社もあります。
要は、自分の会社は何も汗をかかずして、1,000万円を得る、というケースです。
このようなケースは、私の会社では企業倫理に反する、ということで私の会社(IT企業)では禁止されています。
大手、中堅会社が受注した案件を、もし下請けに出さずに自社で全て開発しようとするとどうなるか。
ものすごく高いお金をもらわなくては、赤字となってしまいます。
簡単に言えば、会社が大きいほど社員の給料が高かったり、大きい会社であるほと、会社を管理するための管理部門の社員が多い、などの理由から仕事を請けるのに高い価格で受注しなければ、赤字になってしまうのです。
このご時世ですから、高い価格だとお客さんはお金を出せないため、受注できなくなってしまいます。
そのために、大手、中堅会社にとって、下請け会社を活用することは、利益を出すためには当たり前の事になっています。
このようなピラミッド構造があることから、末端の企業になればなるほど受注価格は安くなっていくので、当然、末端の企業の社員の給料は安くなってしまします。
さらに任される仕事の質も末端の企業になるほど、コーディング、テスト、といった単純作業が多くなるため、社員一人ひとりのスキルアップ、キャリアアップに繋がりづらくなってしまいます。
建設業界で言うと、建設現場でクレーン車を動かしたり、道路に作ったりする職人さんに近いイメージです。
もちろん、これらの仕事がダメという訳ではありません。
しかしIT業界で言えば、開発とテストしか出来ないエンジニアよりは設計も出来るシステムエンジニア、更にはマネージメントが出来るプロジェクトマネージャーの方が、高い価値が認められており、給料も高い、というのが現実です。
末端の会社にいる限り、なかなか設計の仕事や、マネージメントをやる機会が少なく、能力を伸ばす機会がないのが残念なところです。
よっぽど能力のあるエンジニアは、いわゆる「ヘッドハンティング」(※優秀な人材を、他社が引き抜き、自社の社員にすること。)により、ピラミッドの上位の会社に移籍するケースもありますが、実際にはなかなか難しいことです。
IT業界では、このようなピラミット構造があるので、自分の会社、もしくは就職、転職したいと思っているIT会社は、ピラミッド構造のどこのエリアに属しているのか、またIT業界でどのような役割をになっているのか、を理解しておくことは必要です。
しかし、ここで問題になったのは、その下請け会社の「マネージメント力不足」でした。大手、中堅会社は、お客さんと取り決めるべき事項を交渉し、適切な下請け会社を判断して作業を委託し、顧客への納品までプロジェクトをまとめる力が備わっています。
しかし、下請け会社には、その能力が不足しているケースがあり、お客さんからクレームを受けて、結局、下請け会社への直接発注を取りやめ、私の会社が間に入って作業をしたケースがありました。